平成15年 2月7日
日本獣医師三学会 (沖縄県 宜野湾市)
学会プログラム 抄録
※しょうろく
【抄録】
一部分をぬいて書きとめること。ぬきがき。抜粋。「雑誌の論文を―する」
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小動物一般
演題番号:15
ボーダーコリーにみられたceroid-lipofuscinosisの1例
1,はじめに:
neurnal ceroid-lipofuscinosis(NCL)は
神経細胞や線維芽細胞 などの細胞内に
自家蛍光を発するリポフスチン願粒の蓄積がおこる極めてまれな遺伝子疾患である。
臨床症状は、視力障害・性格の変化・てんかん発作などの神経症状があげられ
犬の場合は3才までに死亡する致命的疾患である。
今回、演者らは我が国で初めてのNCL例に遭遇し、病理検査により
その発生を証明した。
さらに、生前の臨床症状および画像診断的な特徴についても検討を行った。
2,材料および方法:
症例は1歳11ヶ月齢のボーダーコリーの去勢雄で
行動異常および視力障害の精査のために日本大学動物病院へ紹介来院した。
3,
成績:
初診時検査結果、血液検査および神経学的検査、脳脊髄液検査では
特に異常は認められず、血清ジステンパーIP抗体1,280倍、中和抗体550倍
CSF中のIP抗体10倍未満、中和抗体は3倍未満であった。
またMRI検査においては、脳溝の軽度拡張および左心室の拡張がみられた。
なお眼底検査および網膜電位検査(ERG)では特に異常はみられなかった。
本症例はこれ以降も歩行困難や採食困難により神経症状が悪化し
上記より、3カ月後に斃死した。
病理検査結果、透過型電子顕微鏡検査により神経細胞内にリポフスチン顆粒の
蓄積が確認された。
これらの所見から、本症例はNCLと確定診断された。
4,考察:
犬のNCLの発症は非常にまれであり
本例は本邦で発生が証明された初めての例となった。
また、ヒトのNCL症例のMRI画像はすでに報告されているが、犬におけるMRIを
使用した報告例は本例が初めてであった。
本疾患の画像診断を確率するために、引き続き症例の蓄積を継続し
NCLの特徴的なMRI画像所見を確定する必要があると思われた。
それによりNCLの鑑別診断および生前診断、さらに本疾患の予後判定が
可能になるものと思われる。
※主治医より補足※
本邦で初めてと書いてありますが、先にお知らせしたように
チワワに続いて2例目です。
ただし、家系で証明された例としては初めてです。
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学会の発表に使われたスライドの原稿
◎Ceroid-Lipofuscinosis
☆ヒト(Batten Disease)・イヌ・ネコ・ウシ・ヒツジ・ヤギに
認められる神経細胞を冒す遺伝性蓄積症(常染色体劣勢遺伝疾患)
※蓄積症(storage disease)組織中に
特定物質が蓄積される疾病を表す一般名で
物質の代謝に必要な酵素の先天的欠損によって起こる。
◎報告犬種
☆日本
チワワ・ボーダーコリー
☆外国
ダルメシアン イングリッシュ・セッター
ゴールデン・レトリーバー オーストラリアン・キャトルドッグ
サルーキー オーストラリアン・シェパード
チベタンテリア ダックスフンド コッカースパニエル
ミニチュアシュナウザー コーギー プードル
◎一般的な臨床経過
生後数か月から数年まで正常に発育
神経細胞に蓄積した老廃物(セロイドリポフスチン)が
健康な神経細胞を破壊し症状が発現
★行動異常 常軌を逸した不安、見慣れたものへの恐怖
精神錯乱、凶暴、トレーニングの喪失
★運動失調 不安定な足どり、ジャンプおよび昇り降り困難
★視覚障害 視力低下、失明
※ごえママ追記※
上記の症状は一般的なCLの症状です。ごえもんの場合は
フリスビーを投げると、どこに飛んだかわからないという事はありましたが
生活の上では何の支障もなく(ごくたまに、家具などに鼻先がぶつかる程度)
目が見えていないという事はありませんでした。
散歩中、側溝に落ちてしまったりという事はたまにありました。
てんかんの発作も一度もありませんでした。
亡くなる2週間くらい前に、軽いチック症状を3〜4回確認しています。
精神錯乱及び凶暴性は最後まで全くありませんでした。
その他の症状は全て当てはまります。
しかし CLとしては、症状が軽かったと思われます。。。
◎診断・治療
★発症した場合、臨床症状は急速に進行
★致命的で治療方法なし
☆ 現在まで有効な生前検査方法なし
☆ (生後7か月からの脳生体組織検査のみ)
◎症例(検査時)
◎各種臨床検査(1)
★神経学的検査 特記すべき異常所見なし
★血液検査 特に異常所見なし
★犬ジステンパーウイルス(CDV・・・Canine Distemper Virus)
IP抗体 1280倍 (免疫ペルオキシダーゼ法の略)
中和抗体 550倍(感染因子・・一般的にウイルス・・と反応し
その感染力や発病力を破壊または抑制する抗体)→ステッドマン医学事典より
※ジステンパーに感染しているかどうかの検査は陰性
◎各種臨床検査(2)
★脳脊髄検査(CSF・・・Cerebrospinal Fluid 脳脊髄液) 特に異常所見なし
★CDV(CSF)
IP抗体 10倍未満
中和抗体 3倍未満
★網膜電位検査(ERG) 特に異常所見なし
◎臨床経過
第40病日 屋内での排尿を認める
第79病日 失禁の増加、運動能力の低下
第95病日 下痢・下血・発熱(42℃)
第96病日 下血・発熱・痙攣発作・斃死(平成14年7月19日)
同日剖検実施 脳・両眼・肝臓・脾臓など肉眼的異常なし
◎診断
(セロイドリポフスチン症)
◎ 血統図
※ごえママ追記※
ごえもん同胎犬のラッキー改めホープ君も(♂ Red&White)
ごえもんと類似症状により、平成14年8月24日に亡くなっています。
ホープ君は、てんかん発作・失明・神経症状による問題行動など
ごえもんよりもずっと症状が重かったので、同じくCLと考えられますが
脳生検をしていないため、確定診断には至りませんでした。
同胎は、ごえもんを含めて5頭です。(♂3・♀2 )
Black&White 2 (♂1・♀1)
Red&White 2 (♂1・♀1)
Blue&White 1 (♂1)
5頭生まれた内の2頭がCLで亡くなったという事になります。
ごえもんの4代祖に、オーストラリアのキャリア犬のリストに載っている犬がいます。
(A/NZ
Ch Tullaview Trailblazer ・ Kelsey Lady in Blue)
そして ごえもん・ホープ君が発症した事により
新たに父親犬・母親犬がキャリアと確定された事になります。
◎まとめ
★本症例は日本で2例目の犬のセロイドリポフスチン症の報告である。
★犬で本症のMRI撮影報告はないが、診断に有効と思われた。
★MRI検査は臨床症状および血統調査とともに
生前診断法のひとつとして
重要な位置をしめる可能性があるものと思われた。
※お願い※
ごえもんの主治医の専門は、犬と猫の心臓病(特に画像診断)です。
神経病や遺伝病の問い合わせには対処しかねますので
問い合わせ等は、ご遠慮下さいます様お願い申し上げます。